東北医科薬科大学病院 新大学病院棟整備
2011年の東日本大震災からの復興や東北地方の医師不足対策として、「東北地方に1カ所」という条件で東北薬科大学に医学部を設置することが決定され、2016年に東北医科薬科大学が誕生しました。医学部設置は1979年の琉球大(沖縄県)以来37年ぶりとなりました。
東北医科薬科大学病院は、前身の東北薬科大学病院が1982年に竣工し36年が経過していました。狭隘化や医療機能の充実を図るために2015年に基本計画を開始し、指名型プロポーザルでアイテックが基本計画の策定支援を受注し、そこから2019年4月の新大学病院棟開院まで一貫した支援を行いました。
本計画は、これまで一般急性期を担う東北薬科大学病院(466床)が、仙台医療圏や近隣医療圏における新たな高度先進医療を提供する600床規模の大学病院として、新館を建設し、高度先進医療の提供、がん治療の充実、研修機能の整備、将来の医療ニーズの変化に柔軟に追従できる病院整備を実現するという基本方針のもとに進められました。新館の整備事業を遂行するにあたり、基本計画の段階からプロジェクトマネジメント・設計業務を担う日建設計とコンサルタントであるアイテックが連携し、大学関係者と綿密な協議・検討を行うことで、上流の段階からソフト・ハードの整合を図りながらプロジェクトを推進することができました。
新東北薬科大学病院は、病床数は466床から616床の増床となり、ロボット手術室、ハイブリッド手術室、バイオクリーンルームを含め手術室9室やオール個室のICU14床やレディース病棟のほか、リニアックなど高機能の機器を備えた放射線治療室や画像診断室等を有しており、これまで以上に高度で先進的な医療の提供が可能となり、名実ともに大学病院にふさわしい体制が整いました。
キーサクセスポイント
Key Success Point
新病院のビジネスモデルの可視化
将来を見越した新大学病院棟整備の基本計画・設計与条件の策定
アプローチとして、①外部環境調査:主に仙台医療圏の患者数等に関する状況と将来予測および医療圏にまたがった患者の流出・流入を確認し、また医療圏ごとに不足している医療の内容を把握すること、②内部環境調査:現病院の地域での役割、患者シェア、経営状況などの強み・弱みを確認することに加え、③大学病院を主体とした他病院とのベンチマーク分析:目指す方向性のポジショニングにある病院の役割、機能、稼働データ、経営指標をベンチマークすることで、現病院の機能強化、拡大機能、新たに整備すべき機能とその優先順位を明確にしました。
①~③の分析により、新病院整備におけるポイントや新病院の役割・重点機能、病床規模や想定外来患者数などの基本コンセプト(全体計画)を策定しました。
また、全体計画をベースに、部門ごとの機能・業務内容、人員体制、諸室構成・数、施設配置条件などの「部門計画」を策定しました。部門計画の策定にあたっては、病院の各部門スタッフとのヒアリングやワーキングによる検討を複数回重ね、大学幹部層がメンバーとなる新病院整備委員会での方針決定を経て、次のステップである基本設計を行うための「設計与条件書」を取りまとめました。
新大学病院棟の増築に伴う既存病院の改修計画
既存棟に設置されている手術部門や放射線関連諸室が新大学病院棟に整備されることに伴い、既存施設の跡地を活用しながら、既存棟に配置されている部門機能の強化や手狭になっている諸室の拡張などを行い、大学病院にふさわしい高度医療の提供や効率的な病院運営の実現を目指しました。
既存施設の改修にあたっては、できるだけ改修コストを抑制するため、診療機能として必要な諸室は整備を行うが、他部門等との共用が可能な諸室は患者動線・職員動線に配慮した上で可能な限り共用することとし、既存棟跡地利用・改修計画として、①各科外来診察室等の新設・拡張、②救急センターの拡張、③外来化学療法室の拡張、④内視鏡センターの拡張、⑤入退院センター・各相談室の整備などを行い、大学病院としての急性期医療の提供を実現しました。
アイテックの具体的な提案例として、内視鏡センターを拡張するにあたって、改修や医療機器整備の費用概算および現病院の内視鏡検査・治療実績データに基づいた増収額の試算による費用対効果を検証し、限られたスペースにどのような諸室を整備すべきかの意思決定を支援しました。
スムーズな新病院の稼働に向けた開院準備支援
病院施設の建て替えは一般的に30年~40年に一度と言われており、当院も既存棟の竣工から35年以上が経過していました。そのため、新病院の整備や移転などを経験した大学・病院職員はほとんど存在しないため、多くの病院建て替え・移転新築の実績が豊富なアイテックが旗振り役となって、新病院における運用計画、医療機器整備、既存施設から新大学病院棟への患者・物品移転、稼働直前のリハーサル・職員研修など開院準備全般を支援しました。
新大学病院棟への移転計画においては、①患者の安全を第一とし、移転に伴うリスクを最小限にすること。②研修やリハーサルなど入念な準備を徹底し、移転前後の既存棟および新大学病院棟の稼働をスムーズに行うこと。③病院経営への影響を極力最小限にすること。を基本方針として、手術や入院、救急の制限計画や放射線装置の移設計画、新病院の総合運用マニュアルの作成と新病院の稼働をスムーズにするための総合運用リハーサルの実施などを支援することにより、トラブルなく無事に新大学病院棟の開設を迎えることができました。